丸留物語第16話 賽銭泥棒

丸留物語

俺の名前はロクロウ

6人兄弟の末っ子だ。

北関東の農家で育った。

洋服は兄弟のお下がりばかり

別にどうでもよかった

元々作る予定の無い子供だったと知ったのは物心がついてすぐのことだ

上の兄弟5人は昭和のトップスターの裕次郎とか文太とか清から取った名前

俺だけ6人目の子供って事で六郎

名前からして苦労しそうな名前だ。

貧乏な中学生活を終える頃

幼なじみから声をかけられた

「ロクチン!東京行こうぜ!」

彼曰く、東京は今景気が良く仕事に困らないどころかかなり稼げるらしい。

行くぜ!

16歳で住み込みで働けたのは大田区に有る鉄工所だった。

こんな俺にも衣食住を提供してくれたうえに優しさを与えてくれた。

二十歳を過ぎる頃だったか、鉄工所の金庫から金が盗まれた。

犯人はこの鉄工所の1人息子だったのだが私が犯人扱いされた。

罪には問わないからという理由でクビになった。

大田区には蒲田という繁華街がある。

そこの飲み屋で仲良くなっていたヤクザを頼った。

鉄工所の件を話すと親身になってくれた。

結果として鉄工所から多額の金をそのヤクザは受け取り鉄工所は潰れた。

私にはいくばくかの金が与えられた。

日銭を稼いでは上野のドヤ街で暮らす日々

この頃日本は好景気だった。

そんな俺もひょんなことから浅草の弁当屋の娘と恋に落ちる。

「ロクさん好きよ」

30代も後半だった。

人生の絶頂だった。

そこに暗雲が立ち込めたのは20数年後の事

東京スカイツリーが出来るとかで立ち退きを要請された。

俺は何も出来なかった。

ただただ泣き崩れる女の背中を見つめるだけ。

有りったけの金を置いてその晩浅草を飛び出した。

俺には誰も幸せに出来ない。

池袋の西口公園でホームレス生活を始めた。

その頃ホームレス狩りが流行っていた。

ただ単にホームレスを襲うだけ、取るものなんて初めから無いのだから。

池袋西口メトロポリタン前

ここの名前がカッコよくて寝床にしていた。

そんなある日

夜中12時頃だろうか

「ホームレスハウス発見したよー!」

途端に鼓動が高鳴った。

十中八九私の段ボールハウスの事だろう。

「いっきまーす♪」

誰かが私の腹部に足から乗ってきたのが分かった。

グフっ、苦しい

すぐさま頭部に衝撃が走って記憶がとんだ

「可哀想やけやめろっちゃ」

「ナオは怒ったら九州弁出るよな ハッハー」

ごめんねおじさん、大丈夫?

いや、いいから早く行ってくれ

やられたばかりの俺が思うのもなんだが

弁当屋の女以外に人に優しい言葉をかけられたのは何年振りだろう

鼻血がでてるからだろう

息が苦しい

・・・・

気が付いてはいたけど都会は苦手だ

それから練馬、和光、志木、川越とホームレス生活を北上していった。

北上し過ぎたのだろうか。

飯のネタがない。

当然仕事もない。

あ、こんな所に神社がある。

神様、俺の人生この先やり直せますかね?

当然賽銭箱に投げる小銭は無い。

賽銭箱ってどうなってるんだろう?

裏側を覗いてみた

下部に南京錠がかけてある。

この鍵を壊せば金を手に入れる事が出来る!

蹴飛ばしたらガチャン!と鍵が転がっていった

この板を引き出せば金がワンサカ!

1円玉1枚

5円玉1枚

10円玉1枚

50円玉1枚

以上合わせて66円

コレで明日パンを買おう

遠くから声が聞こえる

ドロボー!逃げるなよ!

もう走る気力は無い

背中に受ける衝撃と共に気力が尽きた、、、

・・・・・・

新しく1室に来たホームレスの名前さ

ロクロウって名前らしいよ?

ロクロウって苗字?

違うでしょー!

弱者にはとことん冷たいのは娑婆も留置所も同じ

日頃の鬱憤を弱者にぶつけるのだ

そもそもロクロウって名前が漏れるの早すぎ!

1室の古株武田くんが調べてくれたのだ

ロクロウは弁当を食べる以外はずっと寝ているらしい。

賽銭箱泥棒は罪が重いらしいが66円の被害だと不起訴だろう。

ロクロウが来てから10日後

明日ロクロウは娑婆に帰るだろう

運動の時も外に出ないからとうぜん喋った事もないがこの髭だらけのホームレスに何かエールを送りたくなった私は夜21時頃裏の通路に立って隣の1室のロクロウに向かってこう呼びかけた

「ロクロ〜や?」

それはまるで一休さんの母上が一休に呼びかけるかのごとくとても優しい声だった。

その瞬間全室から爆笑が起こった!

笑い声で次の言葉をかけることは出来なかった。

翌日、留置所を去るロクロウは私に向かって頭を下げた。

ロクロウよ、どうしようもない人生だったかもしれないけど

大丈夫!

今日がお前のスタートだ!

いつだってやり直せる!

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