丸留物語第18話 やってきたテコンドー師匠

丸留物語

2室の住人も入れ替わり立ち替わり激しく色んな人が入っては出て行く。

一期一会、風流だなぁとか思わない

珍しく数日間1人で過ごしてる2室の私の元へオヤジが近づいて来た

「どうしたん?1A」

この後2室に入る新人さん、面倒見てやってよ

そう言ってスタスタと離れて行った

わざわざこんな事言いに来るなんて初めてだ

留管職員が恐ること、房の中で被疑者や被告人が自殺する事

要するにこの後入ってくる奴が自殺しないように見張っておけって事だ

一体どんな奴が来るのか楽しみで仕方ないぜ!

犯罪者いらっしゃい!

19時頃留置所のドアが開いた

そこには痩せ型で真面目そうな20代前半の少年がいた

目つきはどんよりと沈んでいる

2室の扉が開いて少年が小声で失礼しますと言いながら入ってきた

今にも泣きそうな顔をしている

よっぽどキツイ調べを受けたのか?

部屋の中の説明をする

といっても3畳ワンルーム、風呂キッチン無しトイレ付き。

説明なんて直ぐに終わる。

自分のテリトリーを教えて早速調べを開始する

名前は?

すみません言いたくありません

別にいいよ番号で呼ぶから

何やったん?

強姦です

あ、そ、そう、強姦ね

(おとなしい見た目と違ってやる事凄いね)

あーもうダメです

消え入りそうな声でそう呟いたかと思ったら体操座りで頭を抱えてうなだれ始めた

泣いてるようだ

俺が泣かせたみたいじゃないか

オヤジの方を見る、こっちは見てないようだ

面倒な奴を任せやがったな!

でも彼からはオモロい話が聞き出せそうな気がする

調べの続きは明日しよう

早朝になると近くの自衛隊基地からラッパの音楽が流れる

歯磨きをしてから朝ご飯

朝はご飯と味噌汁と質素なおかず。

部屋入り口側の金網下部に食器口がある

そこから食事を受け取ったり手紙とか本、私物を受け取る。

金網前に板張りがあってそこで並んで食事をとる

いただきますからいただきましたまで5分かからない。

「いただきました」

ふと横を見ると彼はまだ1/3も食べてない!

遅っ!

おじいちゃんより遅っ!

今日この後彼は検事調べだ

私による調べは夕方過ぎだな

・・・・・・

検事調べから戻ってきた彼は肩を落としていた。

「もうダメです。多分親にも見捨てられました。」

膝を抱えてうなだれる。

デジャブか?

そこで面会のブザーがなった

誰かに面会者が来たって事だ

ガチャガチャと2室の扉が開く

どうやら彼に面会のようだ

15分後

付き物が取れたような表情で彼が戻ってきた。

「親と妹が来てくれました。

ずっと味方でいてくれるって言われました」

良かったなぁ

コレでデジャブを見る事も無さそうだ。

ディナータイムだ飯でも食おう

ここの飯は朝と昼は良くないが晩の弁当は割と美味い

スーパーの弁当売場にある様なメニュー

しかし食べるの遅っ!

歯磨きをして寝る時の服に着替えて布団を房に入れ込む。

ココで彼が何やらストレッチを始めた、本格的な動きだ

「何かスポーツやってんの?」

はい、テコンドーやってます

ほう?

強姦、テコンドー、ご飯食べるの遅い、ツッコミ所満載!

後ろ回し蹴り見せてよ!

3畳の部屋の中でカッコよく連続後ろ回し蹴りを披露してくれた。

話を聞くと海外の中東辺りまでテコンドーの武者修行に行ったこともあるそうだ。

私は君の事を師匠と呼ぼう。

2室で師匠との生活はこの先半年程続く事となる。

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